【動画ニュース】中国に農民工解雇の大波「貿易戦争の痛手を社会的弱者に転嫁」

アップルからの受注減少を理由に、携帯端末ディスプレイ世界最大手の恵州伯恩光学有限会社が突然、8000人の人員削減を発表しました。その結果、大規模な抗議運動が起き、中国当局は現場に治安維持警察を多数動員しました。当局は米中貿易戦争で受けた痛手を、農民工という社会の弱者集団に率先して転嫁しようとしているとの批判もあります。

ラジオ・フリー・アジアによると、11月9日から12日まで、伯恩光学有限会社で複数回の抗議運動が起きました。ある労働者は、受注の減少により臨時労働者や正社員昇格前の労働者が続々と解雇されていると語っています。また仲介料の未払いを理由に、仲介業者も労働者を率いて工場を取り囲みました。これに対し当局は、現場に治安維持警察を多数投入しました。

伯恩光学有限会社は香港資本の携帯端末ディスプレイ世界最大サプライヤーとして知られ、製品の約6割はアップルとサムスン向けです。アップルが携帯端末関連の発注を大幅に減らしたことにより、サプライヤーが苦境に立たされています。

台湾の企業家・社会活動家  高為邦氏

「臨時労働者の解雇により、なぜこれほどの抗議行動が起きてしまったのか。中国は今景気が非常に悪く、工場が大量に倒産している。この状態で減産を理由に首切りを行ったら、労働者に未来はない。彼らが次の仕事を見つけるのは不可能に近いからだ」

香港紙アップルデイリーはウィ―チャット(微信)からの情報として、解雇された労働者に10月分の給料が支払われていないと報じました。企業からの補償金が少ないうえ、新年目前にもかかわらず次の仕事のめども立たず、多くの労働者が故郷での年越しにお金を必要としています。デモを行う労働者とその家族は最大1万人に達しました。中国の労働争議の監視団体「中国労工通信」の責任者、韓東方(かん とうほう)さんは「去年は生産能力の問題が生じ、現在は米中貿易摩擦。明後日には欧州と中国の問題が起きるかもしれない。政府側は労働者の権益が損なわれながらも、これに対応し解決する仕組みを長い間講じてこなかった」と分析しています。

カナダ在住の中国人作家  盛雪氏

「中国の農民工は世界で最も悲惨な集団だと言ってよい。当局が彼らに設定したコストは非常に安い。周知の通り、彼らには自由も、人権も、社会保障を受ける権利もないからだ。米中貿易戦争により打撃を受けた中国政府は今、真っ先に彼らを犠牲にしようとしている」

11月10日、広東省恵州市恵陽区の政府機関は、伯恩光学はすでに労働者と「暫定的な解決プランに合意し」、労働者らはすでに解散したと発表しました。

しかし伯恩光学以外にも、アップルのOEM生産企業フレクストロニクス(偉創力)子会社の「フレクストロニクスプラスチック科技(深セン)会社」も受注の激減により、11月12日から来年2月1日にかけて、従業員に段階的に「休暇」を与えるとしています。

アップル製品のOEM生産企業としては世界最大のフォックスコン(富士康)の従業員も、深セン市観瀾工業団地の生産量が10%減少し、今年の生産ピーク期が1カ月半前倒しで終了したため、毎日1000人以上が退職していると明かしました。

ロイターは10月16日、中国政府の公式データを挙げ、今年上半期に中国で504万社が倒産したと報じました。また台湾メディアは、少なくとも240万人の労働者が失業したと推測しています。

高為邦氏

「このマクロ環境は良くない。中国にとっては米中貿易戦争は始まったばかりだ。中国はこれまで米国に対処する方法を打ち出せていないため、今後さらに恐ろしい失業の波が訪れる可能性がある。失業者は長い間農民工として働いてきたため、農村に帰っても適応していくことが難しい」

中国農業農村部はこのほど、740万人が農村へのUターン起業を果たしたと発表しましたが、「Uターン起業ブーム」とはつまり「大量失業ブーム」に過ぎないと、発表を疑問視する声もあります。

盛雪氏

「改革開放政策の推進中、彼らは故郷を離れて都市に向かった。以前と比べ生活が一変し、より稼げるようになった。だがしょせん彼らはいつでも切り捨てられる存在だ。彼らはすでに、元の生活や生存手段に戻ることができなくなっている」

これにより、農民工の多くが2つの苦境に陥っています。

吉林省の農民工  王さん

「失業しても都会に居続けると金が尽きる。給料を支払わない開発業者を何度訴えたことか。だが結果は、政府の人間から警棒で殴られ、誰からも見捨てられた。だから庶民の多くが絶望している。金がなければ家に帰るしかない。だが農村に帰ってお天道様に任せて飯を食っていては金など稼げない。働きに出るしかない」 

カナダ在住の作家、盛雪(せい せつ)さんは「中国当局は貿易戦争で受けた痛手を社会の最下層に直接転嫁しようとしているが、庶民の生活は苦しくなるばかりだ。当局が民衆の暴動や反乱に直面する機会が増えるのは間違いない」と分析しています。

 

 
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